「日本海大海戦の英雄」聖将・東郷平八郎の光と影。

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日本海大海戦の英雄」聖将・東郷平八郎の光と影。

田中宏巳(たなか・ひろみ) 著

 『東郷平八郎

ちくま新書

   《内 容》

日露戦争時の連合艦隊司令長官だった東郷平八郎は、日本海大海戦に奇跡的な勝利を収めた後、東宮御学問所総裁、陸海軍を代表する指導者として近代史に大きな足跡を残した。

その生涯は、近代国家としての道を歩み始めた日本の運命を一身に体現したものとなった。

一次史料をもとに英雄神話の背景を探り、東郷の実像とその時代を描いた本格的評伝。
 (本書・端書きより)

   《解 説》

東郷平八郎というと、連合艦隊を率い、日露戦争のクライマックス「日本海大海戦」を指揮した、艦隊司令官の模範・偉大な海軍提督というイメージが一般的ですね??

しかし、意外に知られていないのですが、東郷自身は、日露戦争以後も長生きしました。
海軍軍令部長や、軍事参議官などを歴任しています。

また、大正時代には「天皇の学校」とも言うべき東宮御学問所の総裁も務め、若き日の昭和天皇帝王学教育にも関わっているのです。

彼が亡くなったのは昭和9年(1934年)で、日露戦争から三十年近く経っています。

昭和になると、東郷は帝国海軍のカリスマとして、すっかり神格化されていました。
本書は、日露戦争だけでなく、それ以後、昭和まで生きた東郷を描いています。
昭和の東郷は、神格化されてしまったが故に、海軍の軍拡派の人達に担がれ、政府に圧力をかけ、政治に介入します。

著者は、昭和の東郷がいわゆる「元老」ならぬ「準元老」として軍部に権威を振るっていた、という説を唱えています。

美化されがちな東郷英雄神話を解体し、「近代日本の歴史上において東郷が果たした役割」とその弊害を解き明かしています。

 

美化された英雄ではなく「歴史上の人物としての東郷平八郎」を知りたいという方に、本書を強く推薦いたします。

 

 

   《著者略歴》

 

1943年(昭和18年)、長野県松本市に生まれる。
1974年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。
東海大学明治大学講師等を経て、防衛大学校教授へ。

専攻は近代及び東アジアの軍事史、特に旧陸海軍の戦史編纂の経緯と問題点、旧陸海軍史料の性格と行方を主要な研究テーマとしている。