元陸軍法務官が紐解く二・二六事件軍法会議の真実。
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元陸軍法務官が解き明かす二・二六事件軍法会議の真相。
原秀明 著
文藝春秋(ハードカバー)
霧名亜夜斗の
~「この本で歴史を勉強しよう」~
《二・二六事件概要》
昭和十一年、二月十六日未明―……
陸軍歩兵第一連隊、第三連隊、近衛歩兵第三連隊を中心とする将校が、大量の銃火器・実弾を持ち出して、下士官、兵約千五百名を指揮し、総理大臣官邸、内大臣私邸、大蔵大臣私邸など十数ヵ所を襲撃した。
斎藤実内大臣、高橋是清蔵相、渡辺錠太郎陸軍教育総監は即死。
岡田啓介総理は、からくも身を隠して襲撃の逃れたが、身代わりとなった松尾伝蔵陸軍予備役大佐は即死。
鈴木貫太郎侍従長は重傷を負った。
首相官邸、陸軍大臣官邸、警視庁などは決起部隊によって占拠され、帝都・東京の中心部は、麹町から虎ノ門、桜田門にかけて、実弾を込めた機関銃・小銃で武装した兵士達によって封鎖されたのである。
日本を震撼させたクーデター事件の幕開けだった……
《解 説》
いわゆる二・二六事件について書かれた書籍は、沢山ありますが、本書は、事件にまつわる軍法会議をテーマにした本です。
著者は、元陸軍の法務官(軍内における司法担当の文官、軍属)であり、戦後は弁護士として活躍した人です。
二・二六事件を扱った軍法会議の裁判記録は、戦後長らく所在が不明で、焼却疑惑もありました。
それが、戦後様々な遍歴を経て、東京地方検察庁に保管されていることを聞きつけた著者が、当局に申し入れ、平成五年の春に公開に至ったものです。
特に、長らく紛失していた「判決原本」が発見されたことは、特筆すべきことでしょう。
著者は当然、法律家なので、膨大な裁判記録に分け入り、法的論点を的確に指摘しています。
法曹であり、陸軍法務官としての豊富な実務経験に裏打ちされた軍法会議の描写と、その背景の分析は、臨場感に溢れています。
裁判記録を紐解くと、
物議を呼んだ「陸軍大臣告示」や、
「事件の首謀者」や目された真崎甚三郎陸軍大将の不審な行動、
さらに、鎮圧にあたるべき戒厳司令部の香椎浩平中将が、反乱軍と同調するかの動きを見せたなど、事件の真実が浮かび上がってきます。
また、事件を主導した青年将校は、もちろんですが、彼らよりも下の階級の人達(下士官や兵士)への法的処分ー判決についても触れられています。
軍人勅諭により、
「上官の命令は、天皇の命令」とされ、上官の命令に従うことは絶対とされてきた旧陸軍に於いて、青年将校達の「反乱」命令に、下士官や兵士は従いました。
このような命令は、当然違法であり、陸軍刑法に抵触する軍規違反です。
しかし、「上官の命令は、天皇の命令」が大原則ですから、下士官や兵士は素直に従いました。
「上官の命令に絶対服従」という大原則と、
「違法な命令に従うのか?」即ち「命令の内容に問題があれば、部下はそれを拒否してよいのか?」
という旧陸軍の指揮命令系統を根底から揺るがしかねない大問題に、軍は直面したのです。
戦後は馴染みのない、陸海軍刑法や、陸海軍刑事訴訟法、陸軍法務官や軍法会議という「軍内司法」についてもわかりやすく解説されています。
二・二六事件、軍法会議や陸軍法務官などの「軍内司法」に関心を持つ方に、本書を強く推薦いたします。
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